ちばにう通信

地域をつなぐ「月刊千葉ニュータウン」のサイトです。

HOME > 介護の現場より

あれが噂のニューヨーカー

投稿日:2017年10月16日 更新日:

佐伯 咲

 まだ年末には大分早いですが、ベートーベンの交響曲第九番四楽章のテノールの歌い出しが、いつ聴いても「お風呂おーいで」に聴こえて仕方ありません。ということで今回は入浴のお話。

私の勤務する通所介護にいらっしゃる利用者さんの多くの方が、利用毎に入浴をなさいます。中には「食事と風呂を楽しみに来ている」と断言される方もいらっしゃって、そういうお話を伺うと、俄然こちらも気合が入ります。

入浴の現場は、色々な意味合いにおいてとてもプライベートな空間であると言えます。それこそご利用者様同士は、文字通り裸の付き合いとなりますし、私たちとしても、まとまった時間ご利用者様と一対一になれる場所でもあるので、洗身や衣服の着脱などをお手伝いさせていただきながら、色々なお話を伺える良い機会にもなっています。そのため、介護職の中にも、業務の中で入浴介助が一番好きという人も少なからずおりまして、そんな彼らは周りから「ニューヨーカー」なんて呼ばれたり・・・・、呼ばれなかったりしています。

 入浴をすることは身体を清潔に保ち、新陳代謝や血行が促進され、リラックス効果が得られるなど、心身にとってとても有意義に作用することは周知の通りだと思います。ただその一方で、(ご高齢の方はより顕著に)急な体調の変化が起きやすい場所であったり、転倒や怪我が発生しやすい環境であることもまた事実です。

なので、そういった安全な場作りや、ご利用者様の状態確認などにも十分に配慮を行う必要があります。例えば、脱衣所は床の水滴をなるべくこまめに拭き取り、浴室との温度差に気を配り、入浴前にはバイタルチェックを欠かさず、脱衣後には身体の状態を確認し、入浴後はたっぷりと水分を摂取していただくなどなど、それらすべてをひっくるめて「入浴介助」となります。

そんな入浴の現場について何かを語ろうとするとエピソードに事欠くことはありませんが、中でも、そもそも入浴に対して拒否をなさる方への対応は、私たちの腕の見せ所になっています。拒否をされるといっても、例えば、認知症を患っている方で、ここがデイサービスであるという認識もない方であれば、なぜここで入浴をしなければならないかもわからないでしょうし、そういう認識でなくとも、そもそも入浴が嫌い、億劫、面倒、気が乗らないことだってあるでしょう。恥じらいから躊躇をするというのももっともですし、何だかよくわからないけど嫌、というのも立派な理由になると思います(私たちも自分の感情全てに理由付けが出来るわけではないのと同様です)。

それに対して、私たちも出来る限りのお声掛けや対応をさせていただきますが、やはり上手く行くこともあれば、行かない時もあります。少しずつ慣れて下さり、今では施設に来るなり「風呂はまだか」とおっしゃるようになった方もいる一方で、ずっと問題なく入っていただいていた方が徐々に億劫がられるようになり再アセスメントが必要となる、なんていうこともあります。

ただ総じて言えることは、そういった様々な理由で入浴を渋っていた方も、入浴後は「風呂は入るまでは億劫でも湯上りに後悔したことは無い」(糸井重里『小さいことばを歌う場』)といわれるように、皆様「気持ち良かった」と穏やかな表情でいらっしゃることがほとんどです。その表情に出会うために、私たちは毎朝早よからせっせとお湯を沸かします。ピッ。

(月刊千葉ニュータウン2017年10月14日発行号所載)

-

執筆者: