ちばにう通信

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ケツを振れ 蹴っ飛ばせ

投稿日:2009年9月12日 更新日:

「もっとケツを振るんだ!」。一升瓶に入った吸地を大鍋に空けようとしている見習い修行中の板前に、先輩の叱咤する声が飛びます。見習い君、必死に指示に従おうとするのですが、先輩の怒鳴り声と剣幕に押され、混乱するばかり、ついには恥ずかしそうに体をくねらせ始めました。

「バカ、お前のケツを振ってどうするんだ、瓶のケツを振るんだよ!」

何やら、落語に出てくるような場面ですが、実際に調理場であった話です。

仕込み時の調理場はまるで戦場です。

男の職場、時間との勝負という環境の中で、職人たちがいかに自分の意思を共同作業の仲間に簡潔・的確に相手に伝えるかということから、いろいろなスラング(隠語、業界用語)が使われてきました。

いくつか紹介しましょう。

料理法では、「蹴っ飛ばす」という言葉が使われていますが、これは「炒める」の意味です。

「アタリ」というのも、いろいろな場面でよく聞かれます。「味」の意味では、「アタリをつける」「アタリをみる」などと使います。また、縁起かつぎで「すり鉢」のことを「あたり鉢」、「摺る」を「あたる」などと言い換えます。

「アガル」もいろいろな意味をもっているようで、「料理があがる(できあがる)」のほか、「板前があがる」というのは、(板前という)職を辞める意味で使われます。また、「魚があがる」といえば、魚が「死ぬ」意味になります。

料理は早く食べないと風味が落ちます。「アシが早い」といえば、「傷みやすい」の意。なるべく作ったそばから順序よくテーブルに出していく必要から、同じ料理でも先に作ったものを「アンチャン」、後から作ったものを「オトウト」と呼び、アンチャンから先に出していきます。

天ぷらには大根おろしが添えられ、そのピラミッドの頂上には生姜がのっていますが、この様子を「ボウズ」といいます。しかし、その他にも「若い板前」もボウズと呼ばれ、客が一人も来ない日もボウズと言われるのは、何か共通点があるのかどうか、知りません。

他の伝統的な社会と同様、和食職人の世界も最近では徐々に変わってきており、このような板前言葉が飛びかう光景も少なくなってきた感じがします。そのことは、単に面白いスラングが使われなくなってきているというだけでなく、料理の世界での修業、技術の伝承、先輩・後輩の関係といったものが変質しつつあるのかもしれません。

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