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ラクな仕事を求めてはまる落とし穴

投稿日:2010年12月1日 更新日:

本紙 最近では、職業的な訓練というと何かしら「マニュアル」のようなものに沿って、わりとはっきりした手順、工程を覚えていくというプロセスが当たり前のようになっていますが、少し前までは、どこの世界でも教育というのは基礎から積み重ねていき、次第に応用問題へ、そして最後に実践という段階を踏むのが当たり前でした。

佐藤 和食職人の修業というのは、前にも言ったように「3K」であり、親方や先輩の言うことには、理屈もマニュアルもなく「絶対服従」、それがイヤなら辞めるしかないという世界です。しかし、そうした厳しい、一見合理的でないような修業も、一人前の料理人となり、自分で一つの厨房、店を切り盛りできるようになった時、初めて報われるわけで、「3K」の修業時代がなかったら、このような料理は絶対できません。

本紙 最近の「マニュアル全盛」といった風潮の始まりは、1983年に開園した東京ディズニーランド(TDL)だったのではないかと思います。ここでは、入園すると、若いスタッフたちが「こんにちは!」という挨拶でにこやかに迎えてくれる。園内にはゴミ箱が全くなく、客が紙くずなどを捨てると、箒とちり取りをもったスタッフがどこからともなく現れ、さっとごみを片づけてしまう。

こうしたことがすべてマニュアルによって管理されているのが、TDLの特徴であり、マニュアルによる研修さえ終えれば、アルバイトだろうとパートだろうと、立派な一人前のスタッフとして、客への対応も堂々とこなせるようになるというわけです。

短期間のマニュアルで一人前のスタッフに仕上げてしまうスタイルは、日本の職場環境を大きく変え、その後のファミレスの隆盛とそこで働く大量の若いスタッフを生み出しました。それまで一人前の労働力と見なされていなかった高校生にまで大量の職場を提供し、また「若い店長」も出現しました。実は、これが後に「名ばかり管理職」の問題にもつながってきたのだと思いますが。

こうしたスタイルの変化とあいまって、その後日本の社会はバブル期を迎え、若者の働き方に決定的な変化が生まれます。

決まった会社に縛られるのを嫌い、フリーアルバイター、派遣社員といったスタイルを選ぶ若者が増加する一方、終身雇用や年功序列といった労働慣習に疑問符が投げかけられるようになっていきます。

佐藤 しかし、最近では、名ばかり管理職とか、派遣と正社員との格差など、デメリットが目につくようになりました。

本紙 そのとおりです。今では「負」の側面ばかりが目につき、大きな社会問題にもなっていますが、当初はむしろ「束縛が少なくて、カッコいい」とばかりにもてはやされる風潮の中で、そうしたものが生まれてきたのは事実です。

佐藤 修業時代の辛さに耐えかねて、一緒に入った仲間がどんどん辞めていきましたが、当時の風潮の中では辞めて、もっとラクな仕事に移っていくのが「カッコいい」、私のように残って、親方や先輩にしごかれる道を選んだのは、最高に「カッコ悪い」生き方だったのかもしれませんね(笑い)。

本紙 そうです(笑い)。

ディズニーランドとその後のバブル期に、日本人の仕事に対する考え方、働き方が大きく変わったのは否定できません。それは、最近騒がれている「格差」とか「閉塞感」といった問題にも陰に陽に影響を与えていると思います。

佐藤 ファミレスの中には、料理などほとんど勉強したことのないアルバイトの学生が、本部から送られてくるレシピだけで料理を作り、それを客席に出すようなところもあります。やはりわれわれからみると、「お金をいただく」料理にはほど遠いと思うのですが、一見したところではなかなか違いが見えにくいかもしれません。もちろん、違いを見えにくくすることも、マニュアルに書いてあるのでしょうが。

本紙 先日、チェーン展開の居酒屋に入って、寒い日だったので熱燗を頼もうと、店の若いスタッフにメニューに載っている日本酒の銘柄の中でどれが熱燗で旨いか相談したら、「どれでも、温めれば熱燗で飲めますよ」という迷回答をもらって、ガックリ来たことがあります。マニュアルのメッキは案外簡単にはがれるものかもしれませんよ(笑い)。

佐藤 料理は「心」であり、懐石料理の場合、一番大切なことは「おもてなしの心」です。マニュアルで一朝一夕に育てられるものではありません。

(写真)晩秋のこの時季、庭一面に咲き乱れる姫蔓蕎麦(ひめつるそば)の花

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