19歳で板前の道を歩み始めました。
修業時代は、「小僧」と呼ばれ、先輩の板前の一挙手一投足を見て仕事を覚えていきます。それも、すぐに料理をやらせてもらえるわけではなく、また先輩が手取り足取りして一から教えてくれるわけではありません。
朝、調理場には誰よりも早く入り、タオル、まな板を洗ったり、親方や先輩が料理づくりにとりかかれるよう準備します。先輩たちが出勤してきたら、お茶を淹れるのも小僧の仕事です。
仕事が終わったら、皆で食事をしますが、小僧はあらかじめその日の余り物を使って3~4品料理を作らなければなりません。食事は、先輩たちが食べ始めた後、小僧が箸をつけるのは最後になります。それでいて、食べ終わるのは最初でなければならず、しかし後片付けをして調理場を出るのは最後です。
その後、急いで従業員寮に戻って、風呂を沸かしたり、後から帰ってくる先輩たちを受け入れる準備をしておかなければならないからです。
だから、職場に入るのは最初、出るのは最後、寮に着くのは誰よりも早くという、目まぐるしい毎日です。先輩たちが風呂に入り終わる午後11時頃、ようやく自分の時間ということになりますが、翌朝はまた午前6時頃には調理場に入っていなければなりません。
調理場は焼き場、揚げ場、煮方、板(お造り)、八寸場(前菜)などの部門に分かれますが、小僧はそうした本格的な持ち場ではなく、米炊き、新香や果物を切ったりといった雑用で忙しく立ち働かなければなりません(追い回し)。
板前になる夢を抱いて修業を始めた若者も、この「追い回し」の段階でやめてしまう人が少なくない、いや最近ではほとんどの若者がこの段階を乗り越えられずに、もっと楽な仕事場へと移っていっています。
どんな仕事でもそうでしょうが、仕事というのはいったんレベルを落としたら、そこから上がることは難しく、若い頃、よりラクな職場を選んだツケは、その後の後悔となって、一生ついて回ることになります。
(写真・花季玄関の12月のデコレーション)