ちばにう通信

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(10)未完の文庫本を背嚢にしのばせて

投稿日:2004年12月11日 更新日:

十二月八日は先の戦争の開戦日です。八月十五日の終戦記念日のように、だれもかれもが口にするわけではありませんが(マスコミも前者のように騒ぎはしません)、絶対に忘れてはならない日です。

私はまだ小学校にも上っていませんでしたが、次々と兄ちゃんたち(こう呼んでいました)が召集されていき、家の中がガランとして淋しくなったのを覚えております。父が長兄で、弟が三人居りました。次々と兵隊にとられていくのを見て、祖母の心境はどんなだったでしょう。息子を、夫を戦争にとられ、一番悲しむのは私たち女性なんです。今は良い時代です(でも、イラクのこと、税金のこと、ひたひたと迫ってきています)。

小さなクリスマスツリーを飾った部屋でもう何度「マッチ売りの少女」の絵本を読んでもらったことでしょう。表紙もとじてある糸も取れそうでボロボロになっていた絵本を弟たちと一緒に母が読んでくれるのを聞いたものです。そしていつも「おばあさん、私を連れて行ってちょうだい!!おばあさんはマッチが消えると行ってしまうのでしょう。あの焼いたガチョウや大きくてすてきなクリスマスツリーとともに!」というところへ来ると私は泣きました。何度聞いてもそれは同じでした。

デンマーク語の原典からという大畑末吉訳「アンデルセン童話集第一巻」が出たのは昭和十三年の冬、二巻、三巻と待ちかねて読んだ大学生はやがて訳者に「完訳を祈ります。さようなら」と手紙を書いて出征して行きました。文庫本のその何冊かを背嚢にしのばせて・・・・。

戦場にも年の暮れはあり、誰かが持ってきた「マッチ売りの少女」を皆で読み、そのたまゆらの夢があわれで、兵隊さんたちは涙を流したのです。

もう二度とあってはならない、貧しさが誰の胸にもしみた時代の辛い話が、今年も十二月八日が来ると、思い出されます。

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